モスバーガー
手術まで2週間を切った。
そんな私にはバイト出勤前に必ず行う、
『routine work』がある。
それは、モスバーガーを食すことだ。
以下が大まかな流れである。
・出勤時間は18時
・17時に出発→バスへ乗車(おおよそ20分)
・17:20頃 モスバーガー入店
40分の猶予を持ち優雅にモスバーガーを堪能。
しかし今日は違った。
バス停には異様な数の高校生が集結している。
全てを悟り、第一に席が確保できるよう、バスの扉が開くであろう位置についた。
そして寸分違わず私の目前で扉が開く。
私は最後尾の5人かけの椅子の隅に座った。
詳細は下の画像を参照して頂きたい。
ここでは席を譲るという配慮をしなくて済む。
というのも、バスの中間には大きな段差があり、よほどアクティブな高齢者でない限りは、この席にたどり着くことはできないからだ。
そして予感した通り、高校生を敷き詰めたバスは、雪道を進むようにゆっくりと動いた。
大事なMOS時間。
これを削られることは極力避けたい。
私はバス停が変わる度に、どうかバス停に人が待っていないようにと祈願していた。
その途中、
『ピンポーン 』
「え?おまえおりんの?」
「あ、まちがえたw」
「だっるw w w」
という会話が聞こえた。
殺してやろうかと思った。
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気がつくと私はモス店内にいた。
時刻は17:36を指している。時間がない。
まずは王道のモスバーガー。
そして期間限定のカレーモスバーガー。
普段はこの2つを注文するのだが、あえて私はモスバーガーとてりやきバーガーを注文した。
店員さんから渡された番号札は28番。店内を見渡すと、8番や12番といった、私より若い番号で待っている人間を数名、散見した。
よりにもよって時間がない今日、珍しく注文が混み合っていた。私は絶望した。
17:47
バイトに遅れるかもしれないという焦燥と、それでも尚、自制の効かない高揚感を抱いていた。
そしてようやく私の元に、雀の巣が届く。
ご存知の通り、出来立てのモスはかなり熱い。
加えて、重度の猫舌である私があえててりやきバーガーを頼んだ理由。
理由はレタスがひんやりしているから。
モス愛好家である私は知っていた。てりやきバーガーにはレタスが多く、しかも提供段階で加熱を行わない為、出来立ての場合はひんやりとしたフレッシュな食感を味わえるということを。
私は造作なく、それらを貪り食べた。
17:50
残るは1つとなった。いい具合に冷めたモスバーガー。私は引き続きこれを貪り食べた。零れ落ちたソースとタマネギ。
これを残したのは生涯で初めての事だった。
17:53
胸が苦しかった。
まるでピクトチャットしか使えないDSを遊んでいるような感覚だ。
モスバーガーにおけるソースとタマネギ。
SMAPにおける、中居くんとキムタク。
それらを蔑ろにした先に一体何があるというのだ。
私は急いで店を後にした。
17:56
私のバイト先では、タイムカードが30分おきに記録される。
つまり1分でも遅れれば、30分の損失となる。
人混みを掻き分け、私は走った。
これまでにない心の痛みを抱きしめながら。
18:02
無事に遅刻。店長に見限られる。